公衆衛生上の緊急事態における希少なクリティカルケア資源の配分

以下の2つの情報源を元に、和訳資料を作成しました。

Allocation of Scarce Critical Care Resources During a Public Health Emergency

https://ccm.pitt.edu/sites/default/files/UnivPittsburgh_ModelHospitalResourcePolicy.pdf

A Framework for Rationing Ventilators and Critical Care Beds During the COVID-19 Pandemic.

NCBI - WWW Error Blocked Diagnostic

翻訳は現時点での暫定的な情報を元に作成しており、医学的内容については監修を受けていない一次翻訳です。本記事の利用については、各施設及び個々の臨床医の判断と責任のもとで利用してください。

はじめに:

この文書の目的は、公衆衛生上の緊急事態が発生した際に、供給を上回るほどのクリティカルケア資源(例えば、人工呼吸器、重症病床)の需要が生じた場合に、重症患者のトリアージのための指針を提供することである。これらのトリアージの推奨事項は、以下の場合にのみ実施される。1) 重症患者をケアするための病院の対応能力を高めるための適切な措置をすべて講じているにもかかわらず、重症患者が過剰になっているか、または間もなく過剰になる。2)地方自治体によって公衆衛生上の危機が宣言されている。この配分の枠組みは、ケアの義務、人口の健康を最適化するために資源を管理する義務、配分と手続き上の正義、透明性を含む倫理的義務に基づいている。これは、公衆衛生上の緊急時に希少なクリティカルケア資源をどのように配分するかについての既存の推奨事項と一致しており、市民、災害医療の専門家、倫理学者との広範な協議がなされている。

この文書では、

  1. 一貫した意思決定を保証するためのトリアージチームの創設
  2. 最初のクリティカルケア資源の配分基準
  3. 個々の患者に対して不足しているクリティカルケア資源の継続的な提供が正当であるかどうかを判断するための再評価基準

について説明している。

セクション1 トリアージチームの創設 : 患者の担当医はトリアージの決定を行わない。その代わりに、各病院は急性期医療を担当する医師からトリアージ担当者を指定し、リソースが許せば急性期看護師と管理者がそれをサポートし、この文書に記載されている配分の枠組みを運用することになる。トリアージの役割を臨床医師から分離することは、客観性を促進し、コミットメントの衝突を避け、モラル的な苦痛を最小限に抑えることを目的としている。トリアージ担当者は、トリアージの内容に対する患者や家族の訴えに対応し、主治医と協力してトリアージの決定内容を患者や家族に伝える。

セクション2  ICU 入院と人工呼吸器の配分基準:公衆衛生上の緊急時に受け入れられている基準に沿って、割り当ての枠組みの第一の目標は、患者の集団に対する利益を最大化することであり、特に可能な限り多くの患者の退院までの生存率を最大化することによって、退院以降の生存率を最大化することである。ICUのベッドやサービスの通常の医学的適応を満たすすべての患者には、1)客観的で妥当性のある急性期生理学的指標(例えば、SOFAスコア)で評価された退院までの患者の生存可能性、および2)生存に影響を与える可能性のある併存疾患の有無に基づいた長期生存の達成可能性(表1)から導き出される、1~8の尺度を用いた優先度スコアが割り当てられまる(スコアが低いほどクリティカルケアの恩恵を受ける可能性が高いことを示している)。この優先度スコアの素点は、個々の病院でより実施性を高めるために、必要に応じて3つの色分けされた優先度グループ(例えば、高優先度、中優先度、低優先度)に分類することができる。すべての患者は、優先度スコアに関係なくICUへの入院や集中治療を受ける権利があるが、利用可能なクリティカルケアの資源は優先度スコアに応じて配分され、これらのサービスが利用可能かどうかによって、何人の患者がクリティカルケアを受けることができるかが決まる。患者間で優先度スコアが同一の場合は、ライフサイクルを考慮して、これまでにライフステージを生き抜いてきた機会がより少ない若年層の患者さんを優先する。さらに、公衆衛生の対応に不可欠な業務を行う個人、特に、他の人への急性期ケアの提供を直接支援する業務を行う個人には、より高い優先度が与えられる(例えば、同一の優先度スコア間のタイブレーカーとして)。トリアージの結果、ICUへの入院や集中治療を受けられなくなった患者には、集中的な症状管理や心理社会的支援を含む医療ケアが提供される。利用可能な場合には、専門の緩和ケアチームが追加の支援と相談を提供する。

セクション3 継続的なクリティカルケア/人工呼吸の提供のための再評価:トリアージ委員会は、クリティカルケアを受けているすべての患者に対して(すなわち、危機的基準のもとで最初にトリアージされた患者だけではなく)定期的な再評価を実施する。再評価のタイミングは、典型的な疾患の軌跡(illness trajectory)と、病状の重症度から判断されるべきである。病状の重症度を把握するためには、多面的な評価が必要である。重症度スコアの再計算、新たな合併症の評価、治療を行う臨床医の意見など、患者の状態の変化を数値化するために多面的な評価を行うべきである。改善が見られた患者は、次回の評価までクリティカルケアサービスを継続して受けることができる。生存の可能性が非常に低いと考えられる臨床的な悪化を示した患者は、重症度の高いケアを中止することになる。これらの患者は、集中的な症状管理と心理社会的支援を含む医療ケアを受けることになる。利用可能な場合には、専門の緩和ケアチームが追加の支援と相談を提供する。

イントロダクション

この文書の目的は、公衆衛生上の緊急事態が発生した際に、供給を上回るほどのクリティカルケア資源(例えば、人工呼吸器、重症病床)の需要が生じた場合に、重症患者のトリアージのための指針を提供することである。これらのトリアージの推奨事項は、以下の場合にのみ実施される。1) 重症患者をケアするための病院の対応能力を高めるための適切な措置をすべて講じているにもかかわらず、重症患者が過剰になっているか、または間もなく過剰になる。2)地方自治体によって公衆衛生上の危機が宣言されている。この配分の枠組みは、ケアの義務、人口の健康を最適化するために資源を管理する義務、配分と手続き上の正義、透明性を含む倫理的義務に基づいている。公衆衛生上の緊急事態の際に受け入れられている基準に沿った資源の配分枠組みの第一の目標は、患者の集団に対する利益を最大化することであり、多くの場合、最大多数の最大幸福と表現される1,2。この目標は、従来の医療倫理において重要と考えている、患者個人の福利を中心とした倫理観とは異なることに留意すべきである3。後述するように、資源配分の枠組みは、クリティカルケア資源を、治療によって退院できる可能性が高い、退院後も生き延びる可能性の高い患者に優先的に配分することにより、広範な公衆衛生目標の達成するために運用される。市民、倫理学者、災害医療の専門家との広範な協議により、本文書で採用された原則とプロセスが確立された4

本文書に記載されている配分の枠組みは、他の配分の枠組みとは 2 つの重要な点で異なっている。1つめは、通常の状況ではクリティカルケアを受ける資格があると考えられる患者をカテゴリーとして除外していないことである。その代わりに、すべての患者はクリティカルケアを受ける資格があるものとして扱われ、それらの資源から恩恵を受ける可能性に基づいて優先的に割り当てられている。クリティカルケアのリソースが利用可能かどうかによって、どれだけの優先グループが重症患者の治療を受けられるかが決まる。2つ目は、割り当ての枠組みは、単に退院まで生存している患者の数を最大化しようとするだけのものではないことである。そのような、「最大多数の最大幸福」の解釈はとても視野の狭い考え方である5。代わりに、この資源配分の枠組みでは治療によって救われた生命年数を表す全生存年数を最大化することを試みている。

この文書では、1)一貫した意思決定を保証するためのトリアージチームの創設、2)最初のクリティカルケア資源の配分基準、3)個々の患者に対して不足しているクリティカルケア資源の継続的な提供が正当であるかどうかを判断するための再評価基準について説明している。

セクション1 トリアージチームの創設

本節の目的は、セクション2およびセクション3で説明する資源配分の枠組みを実施する責任を持つ各病院のトリアージチームを作成するための手引きを提供することである。患者の主治医がトリアージの決定をすべきではないことを強調することが重要である。これらの決定は臨床倫理ではなく公衆衛生倫理に基づくものであり、したがって、資源配分の枠組みに精通したトリアージチームが配分を決定するべきである。トリアージの役割と臨床の役割を分離することは、客観性を高め、不要な衝突を避け、道徳的苦痛を最小限に抑えることを意図している。

トリアージ担当者

トリアージ担当者の集団を任命すること。トリアージ担当者の望ましい資質としては、重症患者の管理に精通した医師であること(一般的には、集中治療部と救急部の医師)、強力なリーダーシップ、効果的なコミュニケーションと葛藤解決のスキルなどが挙げられる。トリアージ担当者は、トリアージプロセスを監督し、すべての患者を評価し、それぞれの患者に優先度のレベルを割り当て、治療担当医師とコミュニケーションをとり、優先度の高い患者に注意を向ける。このような決定は、個々の患者にとって必ずしも最善とは限らない場合もあるが、以下に説明する配分の枠組みに従って決定を行うことが期待されている。危機時に効果的に機能するために、トリアージ担当者は事前に防災訓練や演習を行い、十分な準備と訓練を受けておくことが理想的である。トリアージ担当者は、この文書の原則とプロセスを適用して、どの患者がクリティカルケアを受けるのが最優先を決定する責任と権限を持っている。トリアージ担当者はまた、以前に患者に割り当てられていた重症患者の資源の再配分について、本文書の原則とプロセスを用いて決定する権限を与えられている。トリアージ担当者は、これらの決定を行う際に、この文書に含まれていない原則や信念を用いてはならない。

負担が公平に分散されるように、トリアージ担当者は重症患者にケアを提供している診療科の長/部長(集中治療部の部長など)によって指名される。医療部門の総責任者と救急部門責任者は、すべての推薦者を承認しなければならない。承認されたトリアージ担当者の名簿は、トリアージ担当者がいつでも要請に対応できるように、またシフト間に十分な休息時間を確保できるように、十分な人数を確保しておく必要がある。

トリアージチーム

トリアージ担当者に加えて、リソースに余裕があれば、トリアージチームは、急性期医療(例えば、重篤医療や救急医療)の経験を持つ看護師(臨床ではもう活躍していない場合も含む)と、データ収集活動、文書化、記録保持、病院の執行部やベッド管理者との連携支援を行う事務スタッフ1名で構成されるべきである。このスタッフには、患者の優先度と希少なリソースの使用状況(総数、場所、種類)の更新されたデータベースを維持するための適切なコンピュータとITサポートが準備される必要がある。トリアージチームメンバーの役割は、トリアージ担当者に情報を提供し、トリアージ担当者の意思決定プロセスを促進し、支援することである。また、トリアージスコアの正確な記録の維持管理を監督し、病院の執行部との連絡役となるために、病院管理部門の代表者をチームにリンクさせるべきである。

トリアージ担当者とチームメンバーは、13時間以内のシフト制とすべきである(30分間のオーバーラップとハンドオフを可能にするため)。そのため、トリアージチームに十分にスタッフを配置するためには、1 日 2 回のシフト制にすべきである。チームの決定とそれを裏付ける文書は、毎日、適切な病院の執行部と医療安全部門に報告されるべきである。

トリアージの仕組み

トリアージ担当者とそのチームは、セクション 2 で詳述された配分の枠組みを用いて、全てのクリティカルケアが必要な患者の優先度スコアを決定する。既に希少なリソースの支援を受けている患者に対しては、セクション 3 で詳述されているように、臨床的な改善や悪化を事前に指定した間隔で評価するための再評価を行う。トリアージ担当者は、すべての患者の優先スコアの包括的なリストを確認し、重症患者へのリソースの割り当てや再割り当てに関する決定がなされた後、直ちに臨床チームと連絡を取る。

トリアージの決定事項を患者・家族に伝える

トリアージの決定の権限はトリアージ担当者にあるが、トリアージの決定内容を患者や家族に伝えるにはいくつかの戦略が考えられる。トリアージの決定内容を患者および/またはその近親者に伝える、または開示することは、患者・家族を人として尊重する行為であり、公正な配分のために必要要素である6

照会の責任者は、まず、患者のトリアージの決定内容について主治医に伝える。この2人の医師は、個々の患者と家族に伝えるための最善の方法を共同で決定すべきである。誰が決定を伝えるべきかについては、以下の選択肢がある。1)主治医のみ、2)トリアージ担当医のみ、または3)主治医とトリアージ担当医の共同作業。最良のアプローチは、個々の医師-患者-家族関係の力学や主治医の好みなど、様々なケース固有の要因に依存する。主治医が自分自身が結果を伝えることに抵抗がない場合は、トリアージ内容に関するコミュニケーションが、臨床医が行う患者の予後に関する話し合いへの自然な橋渡しになり、かつ病原体にさらされる臨床医の数を制限することができるため有用である。第三の(共同)アプローチは、個々の臨床医の道徳的苦痛を軽減し、プロセスへの信頼を高めることができるので有用であるが、これらの利点は、臨床医がより多くの病原体にさらされるリスクとのバランスを取らなければならない。このアプローチでは、主治医はまず患者の状態の重症度を共感を伴った支持的なコミュニケーションで説明し、次にトリアージ担当者がトリアージの決定の観点からそれら決定内容の持つ意味を説明する。トリアージ担当者はまた、トリアージ内容の決定が主治医によってなされたものではなく、異常な緊急事態から生じたものであり、公衆衛生上の決定を反映したものであることを強調するだろう。誰が決定を伝えるかにかかわらず、決定の根拠となった医学的要因、および関連性のない要因(人種、民族、性別、保険の有無、社会的価値の認識、移民の有無など)を説明することは有用であろう。可能ならば、緩和ケアの臨床家またはソーシャルワーカーが同席し、患者と家族に継続的な感情的支援を提供するか、利用できるようにすべきである。

個々のトリアージの決定に対する異議申し立てのプロセス

患者、家族、または臨床医が個々のトリアージの決定に異議を唱える可能性がある。手続きの公平性のためには、そのような紛争を解決するための不服申し立てのメカニズムが必要である。現実的な理由から、不足している資源を、現在その資源を使用していない個人に割り当てる最初の決定と、その資源から明らかに利益を得ていない患者から不足している資源を取り下げる(治療を中止する)かどうかの決定には、異なる不服申し立てのメカニズムが必要である。これは、クリティカルケア資源を待っている患者に対する最初のトリアージの決定が、時間的な制限が大きい状況で行われる可能性が高いからである。そのため、不服申し立てはリアルタイムで判断されなければならない。最初のトリアージ決定では、優先度スコアの計算に誤りがあった、またはタイブレーカーの使用/不使用(セクション2で詳述)がトリアージチームによって行われたという主張に基づく不服申し立てのみが許される。訴えを評価するプロセスには、トリアージチームが優先度スコアを再計算して計算の正確性を確認することが含まれるべきである。治療する臨床医またはトリアージ担当者は、患者または家族の要望に応じて、計算結果を説明できるように準備しておくべきである。

すでに機械的人工呼吸を受けている患者から機械的人工呼吸のような希少な資源を取り止める決定をすることは、道徳的な懸念を高めることになりかねない。さらに、このような決定は、最初の割り当ての決定よりも臨床的判断に依存している。したがって、重症患者の病床や治療中止や再配置の決定に不服を申し立てるための、より堅固なプロセスが必要である。この異議申し立てプロセスの要素には、以下のものが含まれるべきである。

– トリアージの決定に異議を唱える者は、トリアージ担当者に異議の理由を説明する。全体的な資源配分の枠組みに対する異議申し立ては認められるべきではない。

– トリアージチームは、そのトリアージ決定内容の根拠を説明すべきである。

– 資源配分の枠組みへの異議以外の不服申し立ては直ちに、トリアージ担当者/チームおよび主治医チームから独立したトリアージ監査委員会に持ち込まれるべきである(この委員会の推奨構成については以下を参照のこと)。

– 異議申し立てプロセスは、異議の対象となっている患者が現在使用している希少な重症患者の資源が必要で待機している患者に害を与えないように、異議申し立てプロセスが迅速に行われなければならない。

– 病院のトリアージ監査委員会または小委員会の決定が最終的なものとなる。

– 定期的に、トリアージ監査委員会は、トリアージのプロセスが効果的、公正、タイムリーな配分枠組みの適用と一致しているかどうかを評価すべきである。

トリアージ監査委員会は、以下のグループまたはオフィスから採用された少なくとも3 名の個人で構成されるべきである。病院長または指名された者、看護部長またはその他の看護指導者、法律顧問、病院倫理委員会またはコンサルティングサービス、施設の倫理学部のメンバー、および/または非番のトリアージ担当者。単純な多数決で決定を下すには、3人の委員会メンバーが必要である。このプロセスは、電話または対面で行うことができ、その結果は、異議を申し立てた者に速やかに通知される。

セクション2 ICU 入室・人工呼吸器の割り当てプロセス

このセクションの目的は、典型的にはクリティカルケア資源を必要とする病状(すなわち、その病院の一般病棟では管理できない病状)を呈した患者の初期トリアージ決定に使用すべき資源配分の枠組みを説明することである。スコアリングシステムは、単に公衆衛生上の緊急事態の原因となった疾患や障害を持つ患者だけでなく、重篤な疾患を呈しているすべての患者に適用される。例えば、重篤なパンデミックが発生した場合には、パンデミックに起因しない疾患による呼吸不全の患者も、配分の枠組みの対象となる。このプロセスには2つのステップがあり、以下に詳述する。

1. 1.  多原則配分の枠組みに基づいて、各患者の優先度スコアを計算する。

2. 2.  1日に何人がクリティカルケアにアクセスできるかを決定する。

第一発見者とベッドサイドの臨床医は、通常と同様に、クリティカルケアを必要とする患者の初期対応を行うべきである。初期対応に加えて、トリアージ担当者が患者を評価してクリティカルケア資源を配分できるように、一時的な人工呼吸器の使用を行うこともある。クリティカルケア資源の必要性が認識されてから90分以内に最初のトリアージ評価を完了させるために、あらゆる努力をすべきである。

割り当ての枠組みの倫理的な目標 公衆衛生上の緊急時に、予め定められた基準に沿って、資源を配分する枠組みの第一の目標は、患者集団の利益を最大化することであり、しばしば「最大多数の最大幸福」と表現される。

ステップ1:多原則配分の枠組みを使用して、各患者の優先度スコアを計算する。

この配分の枠組みは、主に2つの原則に基づいている。1) 最も多くの命を救うこと、2) 最も多くの生存時間を確保すること。集中治療で助かる可能性が高い患者は、集中治療で助かる可能性が低い患者よりも優先される。重篤な併存疾患を持たない患者は、平均余命を制限する疾患を持つ患者よりも優先される。表1に要約されているように、逐次臓器不全評価(SOFA)スコア(または、退院までの生存確率の代替的で有効な客観的な測定値)は、患者の病院での予後を決定するために使用される。さらに、トリアージチームによって決定された生命を脅かす併存疾患の存在は、患者の長期的な予後を特徴づけるために使用される

表1. 公衆衛生上の緊急時における重症患者・呼吸器の配分のための多原則戦略

原則詳細ポイント
1234
できるだけ多くの命を助ける短期的予後 (SOFAスコア)SOFAスコア<6SOFAスコア6-8SOFAスコア9-11SOFAスコア≧12
できるだけ多くの生存期間を確保する長期的予後 (併存疾患の医学的アセスメント) 長期予後に関わる主要な生命を脅かす併存疾患がある 重篤で生命予後が限られた併存疾患がある:1年以内に死が予想される

#SOFA=逐次臓器不全評価;SOFAの代わりにLAPS2スコアのような院内死亡率を予測する急性期の生理学的指標を使用することができるが、同様に4つのカテゴリーに分ける必要があることに注意すること。

*スコアは1~8の範囲で、スコアが最も低い人はクリティカルケアのベッドとサービスを受けるために最も優先度が高くなる。

参考1.SOFA (Raith EP. JAMA. 2017;317(3):290-300.訳者の判断で挿入)

  SOFAスコア
  01234
呼吸器PaO2/FiO2(mmHg)>400≦400≦300≦200 呼吸器補助下≦100 呼吸器補助下
凝固系血小板数(×103/mm2>150≦150≦100≦50≦20
肝臓ビリルビン値(mg/dl)<1.21.2-1.92.0-5.96.0-11.9>12.0
心血管系低血圧 平均動脈圧=拡張期血圧+脈圧×1/3なし平均動脈圧<70 mmHgDOA≦5γあるいはDOB投与DOA>5γあるいはエピネフリン/ノルエピネフリン ≦0.1γDOA>15γあるいはエピネフリン/ノルエピネフリン >0.1γ
中枢神経系GCS1513-1410-126-9<6
腎機能血清クレアチニン値(mg/dl)<1.21.2-1.92.0-3.43.5-4.9>5.0
Glasgow Coma Scale
観察項目反応スコア
E(開眼)自発的に  4
呼びかけにより(音声刺激をやめると元に戻る)3
痛み刺激により2
無反応1
V(最良言語反応)見当識あり(今日の日付・ここの場所・周りの人が言える)5
混乱した会話(見当識障害があるが,数語以上の文章が言える)4
不適切な単語3
意味不明の発声2
無反応1
M(最良運動反応)命令に従う6
疼痛部位認識(胸骨上あるいは眼窩上切痕などに対する痛覚刺激 部位に向かって患者の手が動く)5
逃避(正常屈曲反応;爪床や上肢への痛覚刺激に対して,患者の 脇が開くような動き)4
異常屈曲(除皮質肢位;患者の肘・手関節・手指が屈曲し,脇が 閉まるような動き)3
伸展(除脳肢位;患者の上肢は肘を伸ばし体に沿って伸展する)2
無反応1

点数は、患者のSOFAスコア(1~4点の範囲)と併存疾患の有無(主要な生命を脅かす併存疾患は2点、1年以内に死亡する可能性のある生命を脅かす併存疾患は4点)に応じて割り当てられる(表1)。これらのポイントを合計して、1~8の範囲の合計優先度スコアを作成する。スコアが低いほどクリティカルケアを受ける可能性が高く、スコアが低い人が優先される。

表2. 主要な併存疾患と重篤で生命予後が限られた併存疾患の例*

主要な併存疾患の例(長期生存率が明らかに低いもの)重篤で生命予後が限られた併存疾患の例(一般的に生存期間が1年未満であることが多い
– 中等度のアルツハイマー病または関連する認知症 – 予想生存期間が10年未満の悪性腫瘍 – NYHAクラスIIIの心不全 – 中等度の重度の慢性肺疾患(例:COPD、IPF – 75歳未満の末期腎疾患 – 重度の多血管CAD – 非代償性肝硬変の既往– 重度のアルツハイマー病または関連する認知症 – 緩和的介入(緩和的化学療法や放射線療法を含む)のみで治療を受けているがん – NYHAクラスIVの心不全+フレイル – 重度の慢性肺疾患に加えて、虚弱性の証拠 – MELDスコアが20以上の肝硬変、移植不適格 – 75歳以上の末期腎疾患

*この表は例を示しているに過ぎない。「最も多くの命を救う」という原則に基づいて0、2、または4点を指定するための他の合理的なアプローチがあると思われる。ElixhauserやCOPS2のような指標も選択肢の一つかもしれないが、これらのスコアを迅速に計算するのは難しいかもしれない。

その他の採点上の考慮事項:ライフステージを生きてきた経験少ない患者(若年者)に対して優先順位を高める。優先グループ内のすべての患者に提供できるリソースが十分でない場合には、ライフサイクルを考慮して、より若い患者を優先することを、タイブレーカー(下記参照)として使用すべきであることを提案する。我々は、12-40歳、41-60歳、61-75歳、75歳以上に分類することを推奨する。ライフサイクル原則を取り入れることの倫理的正当性は、以下のような価値ある目標を与えることである。人には少年期、青年期、中年期、成人期を経て、個人の人生のステージを経験する機会が平等に与えられている7。この原則の正当性はその人の価値や社会的有用性などではない。若年者が優先されるのは、ライフステージを過ごす機会が今まで少なかったからである。個人が生命維持のための資源が絶対的に不足している状況を考えるように求められたとき、ほとんどの人は老人よりも若い患者が優先されると考えている8。また市民は、重症患者への資源配分に関して、緊急時にはライフサイクルの原理を利用して配分を決定することを支持した4。ハリスは、ライフサイクルベースの配分を支持する道徳的な議論を次のように要約している。”死ぬことは常に不幸である …….. 若い命が断たれることは不幸であるばかりか、悲劇でもある9

公衆衛生対応の中心的役割を担う者に優先順位を高めること。急性期医療の提供を直接行っているすべての人を含め、公衆衛生対応に不可欠な業務を行う個人は、より高い優先順位を与えられるべきである。この原則を具体的にどのように運用するかは、公衆衛生上の緊急事態の性格によって異なる。選択肢としては、これらの個人のための優先度スコアからポイントを差し引くか、またはタイブレーカー基準として使用することがあげられる(下記参照)。この考え方は、患者を治療し、社会の秩序を維持するという連鎖の中で重要な役割を果たしている個人を含むように広く解釈されるべきである。しかし、第一線の医師を優先し、他の第一線の臨床医(例えば、看護師や呼吸療法士)やその他の重要な人材(例えば、病室の消毒を行うメンテナンススタッフ)を優先しないことは適切ではないだろう。

除外基準の欠如

この配分の枠組みの最大の特徴は、公衆衛生上の緊急事態が発生した際に、個人がクリティカルケアサービスを利用できないようにするために、除外基準を採用していないことである。これにはいくつかの倫理的な正当性がある。第一に、厳格なカテゴリカルな除外基準を使用することは、従来の医療倫理からの大きな逸脱であり、公平性の根本的な問題を提起することになる。第二に、パンデミックや災害時に公衆衛生の目標を達成するためには、このような制限的な措置は必要ではない。第三に、カテゴリカルな除外基準は、一部のグループには「救う価値がない」という意味に解釈される可能性があり、不公平感と不信感につながる。公衆衛生上の緊急事態においては、制限的な公衆衛生対策への協力を確実にするためには、公衆の信頼が不可欠である。したがって、割り当てシステムは、日常臨床においてクリティカルケアを受けるであろう全ての患者を対象とし、ベッドやサービスの利用可能性によって対象となる患者の数を決定できるようにすることで、すべての個人が「救う価値がある」ことを明確にすべきである。積極的な治療を行ったにもかかわらず、臨床医が通常の臨床状況下では重篤なケアサービスを提供しないような、即死または即死に近い状態(例:適切なACLSに反応しない心停止、大量の頭蓋内出血、難治性ショック)が存在することに注意することが重要である。公衆衛生上の緊急事態が発生した場合でも、臨床医は通常の臨床現場で使用するのと同じ基準を用いて、クリティカルケアの適切性について臨床的に判断すべきである。

ステップ 2:どの優先順位グループが希少な資源を受けられるかを毎日決定する。

病院のリーダーとトリアージ担当者は、優先度のスコアがいくつであればクリティカルケアサービスを利用するかについて、1日2回、必要であればそれ以上の頻度で決定するべきである。これらの決定は、重症患者のリソースの不足度をリアルタイムで把握し、近い将来(数日)にケアのために新たに来院する患者の予測に基づいて行われるべきである。例えば、クリティカルケア資源の差し迫った不足(すなわち、利用可能な人工呼吸器が少なく、毎日大量の新規患者がいること)が明らかな場合、最も優先度の高い患者(最も低いスコア、例えば、1〜3)のみがクリティカルケアを受けるべきである。資源の欠乏が改善すれば、優先度が低い(スコアが高い)患者も、クリティカルケアの介入を受けるべきである。

患者をグループ化するためには、少なくとも2つの合理的なアプローチがある。1)1-8の多原則配分スコアの素点に応じて行うか、2)優先度スコアの素点に基づいて3つの優先度グループ(例えば、高優先度、中間優先度、低優先度)に分類することである。1-8のフルスケールを使用することは、連続的なスケールであるものに任意のカットポイントを作らず、優先度スコアからすべての情報を得ようとする方法である。一方で3つの優先度グループへの分類を用いることは、災害医療の標準的な手法と一致しており、十分に検証されていない優先度スコアのわずかの差が割付決定の決定要因となることを避けることができる。どちらのアプローチも妥当である。最善の選択は、施設の好みと、臨床ケアの最前線でトリアージプロトコルを運用するためのさまざまな方法への快適さに依存する。

色分けされた3つの優先度グループに患者を割り当てる方法の説明 色分けされた優先度グループを作成することを選択した施設を対象にその方法を説明する。表1に記載されている多原理配分の枠組みを用いて患者の優先度スコアが計算されたら、そのスコアに応じて各患者は色分けされたトリアージ優先グループに割り当てられ、電子カルテ上に明確に記載されるべきである(表3)。この色分けされた優先グループの割り当ては、トリアージ担当者が多原則配分枠組みのスコアに応じて、クリティカルケアの資源を受け取るために、運用上明確な優先グループを作成できるように設計されている。例えば、赤のグループの患者は、重篤なケアの介入から恩恵を受ける可能性が最も高いため、資源が不足している場合には、他のすべてのグループよりも優先的にケアを受けられるようにすべきである。オレンジ色のグループは中間的な優先度を持ち、赤色のグループのすべての患者にクリティカルケアの資源が割り当てられた後、利用可能であれば、クリティカルケア資源を受け取るべきである。黄色のグループは優先度が最も低く、赤とオレンジのグループのすべての患者にクリティカルケア資源が割り当てられた後、利用可能な資源があれば、クリティカルケア資源を受け取るべきである。

表3. 患者を色分けされた優先グループに割り当てる

多原則スコアリングシステムの素点を使用して優先順位のカテゴリーを割り当てる
優先度とコードカラー多原則スコアリングシステム による優先度スコア
赤色 最優先事項優先順位スコア1~3
オレンジ 中間優先度(必要に応じて再評価優先順位スコア4~5
黄色 優先度が最も低い(必要に応じて再評価)優先順位スコア6~8

患者間の優先度スコア/カテゴリーの「同点(タイブレーク)」の解決

患者間で優先順位の高いスコア/カテゴリーに「同点」があり、スコアが最も低いすべての患者に対して十分なクリティカルケア資源がない場合は、ライフサイクルを考慮して、若い患者を優先することを第一のタイブレーカーとして使用すべきである。我々は以下に分類することを推奨する:12-40歳、41-60歳、61-75歳、75歳以上。また、急性期医療の対応に不可欠な個人を優先することを推奨し、これをタイブレーカーの基準として運用することを推奨する。

ライフサイクルへの配慮と医療従事者への配慮に基づく優先順位を適用しても同点が残る場合、病院が上記の3つの優先度カテゴリーアプローチ(例:高優先、中優先、低優先)を採用している場合は、患者優先度スコアの素点をタイブレーカーとして使用し、素点が低い患者を優先する。これら2つのタイブレーカーが適用された後も同点がある場合は、抽選(すなわち、無作為割付)を使用して同点を取り除くべきである。

優先度スコアに関係なく、すべての患者がクリティカルケアのベッドとサービスを受ける資格があることを再確認することが重要である。クリティカルケアの資源がどれくらい利用可能かどうかによって、何人の患者がクリティカルケアを受けることができるかが決まる。

クリティカルケアを受けられない患者に対する適切なケア

クリティカルケア/人工呼吸器にトリアージされない患者は、集中的な症状管理と心理社会的サポートを含む医療・ケアを受けることになる。資源の利用可能性の変化や臨床状態が変化するため、全ての患者は、クリティカルケアを必要とするかどうかを判断するために、毎日再評価されるべきである。利用可能な場合には、緩和ケアの専門家チームが相談に応じることができるようにする。緩和ケアの専門家が利用できない場合は、治療を行う臨床チームが一次緩和ケアを提供すべきである。

セクション3 クリティカルケア・人工呼吸器の継続的提供のための再評価

このセクションの目的は、重症患者が治療を継続するかどうかを判断するために、トリアージ委員会が重症患者の再評価を行うために使用すべきプロセスを説明することである。

重症患者の再評価の倫理的目標 このような再評価の倫理的な正当性は、公衆衛生上の緊急事態において、すべての人のための十分な重症患者の資源がない場合に、生存する可能性が低いと判断された患者が、希少な重症患者のサービスを無期限に利用できるようにすると、集団の利益を最大化するという目標が危うくなる。さらに、定期的に再評価を行うことで、個人が重症化した場合などの恣意的な考慮が、患者の治療へのアクセスに不当に影響を与える可能性を減らすことができる。

再評価の考え方

重症患者にはすべて、その疾患の臨床的特徴に応じて決定される期間、試験的治療が実施される。試験的治療の期間の決定は、理想的には、公衆衛生上の緊急事態の可能な限り早い時期に、疾患の自然経過に関するデータが入手可能になった時点で行われます。試験的治療の期間は、期間を長くすべきか短くすべきかを示唆するデータが事後に出てきた場合には、必要に応じて修正されるべきである。

トリアージ委員会は、クリティカルケア/人工呼吸を受けている患者の定期的な再評価を行う。重症度スコアの再計算、新たな合併症の評価、臨床医の意見など、患者の状態の変化を定量化するために多面的な評価が用いられるべきである。改善が見られた患者は、次の評価までクリティカルケア/人工呼吸を継続する。重症患者がいる場合は、再評価の結果、SOFAスコアの悪化や全体的な臨床的判断の悪化によって臨床的に著しい悪化を示した患者は、患者および/または家族にこの決定が伝えられた後、人工呼吸器の中止を含めて、集中治療を中止すべきである。一般的に決められた試験的治療期間の全期間を観察するべきであるが、患者が急激に衰弱したり(例えば、難治性ショックやDIC)、予後が非常に悪いことが予想される非常に重篤な合併症(例えば、広範囲の脳卒中)となった場合、トリアージチームは、定められた試験的治療期間が終了する前に、その患者には、もはやクリティカルケアをするべきではないと決定する場合がある。

クリティカルケアを受けられない患者に対して適切な臨床ケアを行うこと。

クリティカルケアを受けることができなくなった患者に対しては、集中的な症状管理と心理社会的支援を含む医療・ケアが行われるべきである。利用可能な場合には、緩和ケアの専門家チームが相談に応じる。緩和ケアの専門家が利用できない場合は、治療する臨床チームが一次緩和ケアを提供すべきである。

References

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Contributors:

Development of the original allocation framework(Annals of Internal Medicine 2009):

Douglas B. White, MD, MAS

Mitchell Katz, MD

John Luce, MD

Bernard Lo, MD

Public engagement efforts:

Lee Daugherty Biddison, MD

Eric Toner, MD

Development of the model hospital policy:

Douglas B. White, MD, MAS

National and international dissemination effort:

Scott Halpern, MD, PhD, M.Bioethics

Douglas B. White, MD, MAS

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